鵜の目の“絵巻き短歌”

               

ゴミのごと津波は車・家・船を浮かべて街を遡(さかのぼ)るなり

*船に酔う心地し ばら く つづきたり程なく報ず東北に大地震と

*原発の安全性の危うさは車の「…だろう」運転のそれ{福島原発津波による電源喪失}

代替の発電機による冷却が機能せずして炉心が溶け出す{  〃  炉心溶融}

貞観の津波の痕跡調査など何処吹く風の東電感覚

起きるべくして原発の事故起きた 想定外などと言い訳するな

*原発と云う玉手箱の蓋外れ出てくる主は放射能なり

多発する原発事故のババ抜きで菅氏は「メルトダウン」を引きたり

原発を推し進め来し郎党が事故への対処が悪しきと息巻く

馴れ合いの原子力村を育てしはかって与党の自民党なり

啄木の碑も松原も流失す白砂青松いつ蘇える{陸前高田}

わが街の駅にも現わる東北の地震被災者らしき人かげ

ひとつ事に専念してきて今日がある常識に欠けると人は謗(そし)れど

今年こそ景気はもどるか電線に朝からツバメのさえずり喧し

*古き巣にちゃっかりツバメが住みつきて六羽のヒナに餌をはこびくる

親の来る気はいにヒナはいっせいに黄色い口をいっぱい開く

新緑を映す水面に餌を求めツバメが反転くり返すなり

アズキバー齧(かじ)れば前歯の三本がポロリと欠けて古希を覚ゆる

少しづつラケットの感触よみがえる五十年ぶりの卓球なれど

胃癌かと心配したるに取り出しし石玉二つ胆嚢の中より

*昼間には金に輝く金華山夜には男の匂いを放つ{ツブラジイの咲く頃}

*夜も更けて何かが襟もと這う気はい払えばいきなり指に咬みつく

ひっそりと沙羅の花咲く池の辺に筑前琵琶のバチの音ひびく

飛び跳ねて相手の球を打ち返す汗がポタポタ床に飛び散る

*抱かれんと初対面の幼な子がもろ手をわれにさし出してくる

*トンネルの長きをつぎつぎ厭きるほどくぐりてようやく白川郷へ出る{東海北陸自動車道}

吊り橋を女の腰にしがみつきへっぴり腰の男が渡る

目がまわる谷瀬のつり橋想いだす十津川村の被災の報に

原爆と原発の暴走同じもの二度あることは三度あるらん{平成二十三年八月六日   原爆の日}

七万の原発難民さ迷いて汚染の波紋まだまだ広がる

原発の災い何処までつづくやら津波が開けたパンドラの箱

シャーシャーシャーフル回転の蝉の声その下通ればアイドリングになる

*このままにあの世へ行くのかグルグルと加速し落ちるウオータースライダー{七十歳にして初体験}

蝉しぐれ降りしく中を歩き行くお盆も過ぎて人の気もなく

*開いた口ふさがらぬなり追突の列車をその場に埋めいる映像

炎暑にも風にもめげず道ばたのキバナコスモス鮮やかに咲く

原発の事故に労力の大半を注ぎし菅さん御苦労でした

*なじみたるマウスを筆に持ち替えてなぞり書きする「般若心経」

パソコンでアナログ的な絵を描きぬ薄衣まといし観音菩薩の

大人には負けじと五歳は先頭をゆずらず池畔を一周したり

*乗りのいい曲には何でもマイケルのムーンウォークのステップ踏む孫

*行楽に行きたき気持ちを抑えつつ終日屋根にペンキを塗りぬ

雪の夜に静かに聞きいる江戸小唄想い出すなり家を出た頃

谷沿いに御座す先祖の墓石を寺へ移しぬ役場の勧めで

*石を飛び滝を遠巻き谷川を上りゆくなりアマゴ探りて

白骨片(はっこつ)となりて出てくる恐ろしさ花に埋もれ見送られしに

年の瀬も迫りてようやく気の乗らぬ窓ガラス拭きせんとするなり

*ダム工事進める止める復活するさながら日替わりランチのごとし

一発でとどめを刺したる内山の左フックにエールを送らん{平二十三年大晦日 WBA Sフェザー級王座統一戦}

ドア横に立ちて当てなき客を待つ頬に冷たし伊吹下ろしが

基準値を越す放射能のガレキ処理責任もって東電がせよ

*元気よく球を打ち合う初練習終えて楽しくお汁粉食べる

*水あめの伸びるがごとくになめらかな音を奏でるストラディバリウス

*雛壇の五人囃子が真夜中に座敷で宴をくり広げてる

得意げにリトルワールド案内する孫は最後におもちゃをねだる

クラブ振る順序にしばし戸惑いぬ初めて参加のグランドゴルフ

観覧車ひと回りするたび新しき世代の客に入れ替わるなり

「何事も自分の足で確かめよ」諭して孫に自転車を買う

*春の宵女みこしがねり歩くひときわ紅き気炎を上げて

*桜咲けば思い出すなり師の言葉「何でもいいから一番になれ」

橋架けるごとくに桜は枝伸ばす彼岸へ人を渡さんとして

ネギ入りのお好み焼けば妻と娘が旨い旨いと食べてくれたり

三回のホールインワンの賞としてトイレのロール紙三個をいただく{グランドゴルフ}

信長の生まれ替わりと諦めて厨の中では女房に従う

荷が届き初めて手にするタブレット眺め透かしてこわごわ触れる

磐石と云う横綱に雲かかる日本勢は気概を見せよ

世界中で日蝕見んと空仰ぐこの余裕が政治家に欲しい

花のころ半夏生は葉を白くする片や女も白粉を塗る

*五百回の集いを祝いて吟行す三十一文字の絆なりけり

桃形の鳥居をくぐりてお参りす孫の手を引き幸多かれと

*降参とパンツひとつの赤鬼が地に横たわる桃太郎神社

学童のすいすい登る階段も老いには厳しき犬山城かな

*瀬を下る舳先が分ける波がしら冷たき飛まつが顔にもかかる

わだかまる人の顔をばボールに重ねて思い切りクラブで引っぱたく

自分の身に及ばぬ放射能は怖くない米倉爺の傲慢さかな

大飯は活断層の上にあり琵琶湖の水も何時か汚されん

いつもなら通らぬ小径へ足が向くクチナシの香に惹きつけられて

*静かなるデモ行進に思いだす栄でジグザグデモせし彼の日

軒下に今年はツバメが巣をかけぬ過去にならいて株価が上がるか

宴終えてホテルを出れば漆黒の闇夜にかがり火浮かぶ小瀬かな

*草むしりノウゼンカズラの燃える花見ればよけいに汗が出てくる

佐渡へ来てガイドの「おけさ」伝説を聞くに目がしら熱くなりたり

求めたる煎餅受けとり肩ならべ写真に収まるジェンキンス氏と

異な縁で一緒になった曽我夫婦二人の余生に安らぎ多かれ

*壇上に乗せられ習う佐渡おけさ見まねで動かす手足がもつれる

一週間前に捕へしかぶと虫幼なは今朝にも放すと言い出す

尖閣を緒に始まりたる騒乱はガス抜くための「官製デモ」なり

処分する場所の当てなき核のゴミつくり続けてどうするつもりか

日本は脱原発もままならぬ安保の絆を切れぬ限りは

*しがらみにドジョウ宰相は身をよじる脱原発のハードル高く{政府は脱原発の閣議決定をようしなかった}

原発と麻薬の効用同じものひとたび使えば離れられない

尚子から炬火を引き つぎたる知事が元気にスタンド前を駆け行く

炬火かかげ知事が自ら走るなり四十七年前を思いて{第六十七回ぎふ清流国体始まる 四十七年ぶり 当時、現知事は高校生で炬火ランナーを務めた}

われ憂うスマホのゲームに取り憑かれ他に関心を示さぬ孫を

姫りんごどんな味かと手のとどく一つをもいで味見してみる

誘われてグランドゴルフを始めたり健やかに生く一助になるかと

*窓あけて眠れば夜中に目が覚めぬまあるい月に顔を覗かれ

神無月衣替えれど昼過ぎに三十度を越え半袖に戻す

*日本に帰化して永住するというドナルド・キーンをこよなく敬う

*交替で食事を つくることになり手始めはまずブリの照り焼き

 ~ つれづれ短歌(そ の三) ~

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