*封筒を抱えし人が次々と足早に行く申告の時季

年経たる真黒き幹の枝先に梅は咲きたり雪降るごとくに

新設の遊具は赤・黄に彩られ整備すすみぬ長良公園

*春風につつましやかなるカタクリの花は互いにおしゃべり始む

*ヨコ文字のスナックひしめく路地裏に石焼きいも売る笛の音ひびく

*夕暮れの湯ぶねに灯火ゆらめきて湯けむり湧き立ち雪は降りくる

*駅前は幾何学模様に描かれぬ四十三階より眺むれば

*お得意に日めくりカレンダー配布する習わし二十七年つづきぬ

トレパンの若きら掛け合う声高く大学跡の広場を駆ける

山辺なる公園行けば老い二人長き竹にて柿を落しおり

一杯のコーヒー頼めば五品ものサービス付きて朝食となる

コーヒーに付くサービスはトーストにタマゴ・サラダにフルーツ・ヤクルト

暖かき日は冬枯れの公園をウオーキングする人かげ絶えず

*目にキズミはさみて時計を修理する父の姿がまぶたに浮かぶ

遥かなるスリランカより交信の呼び出し鳴りて胸は高鳴る

頬に風受け首下はハーブ湯に体はポカポカ気持ちよきかな

夜半に鳴くホトトギスの声淋しけり悲しき民話は真実ならん

恐山風も無いのに風車止まっていたのが不意に回りだす

*剣かざす武者が必死の形相で掴みかからんねぶたの祭り

*若者のラッセラッセのかけ声に跳ね狂うなり青森の夜は

*夜半の雨はげしく降りて「暗門の滝」へはこのさき歩を進め得ず

緑濃きブナの林へ分け入れば心は鎮まり気力はみなぎる

*「なまはげ」が主と交わすやりとりの言葉はそのまゝわが胸に沁む

*弓を引くごとくにしなう竿燈を巧みに支える差し手の腰つき

*象潟(きさかた)の眺海の湯に入り眺むれば水平線は弧を描きたり

爺杉に耳を押しあて聞いてみる「婆杉亡くして寂しくないか」(羽黒山参道)

*義経の可笑しき逸話を聞かせつつ笹川流れの船は進みぬ

*採れたての岩ガキ口に含みつゝ笹川流れの乗船を待つ

遥かなる出羽へ行かんと朝まだき三時に起きて車を始動す

道端に出店が並べて売るぶどう巨峰に変わりて秋を知りけり

*稲穂垂るあぜ道行けばアキアカネ編隊なしてあいさつに来る

秋風に可憐に咲きたるコスモスの花ゆれ動きてシャッター押せず

全員で会社の周りを掃除する年に一度の奉仕活動

黒服に黒帽子なる自転車が不意に飛び出す師走の夕暮れ

生き方は人の数だけ在るものと特に感ずる十二月かな

年の瀬に買物するには大きめの手縫いの袋を提げて行きけり

暖かき冬日和にはテラスにてツルゲーネフなどじっくり読まん

*手のひらに乗りたるリスとお互いに目を丸くしてにらめっこする

*朝餉どき幼なのおでことごっつんこメガネが壊れて遅刻となりぬ

*レシピ見て作りし料理に箸つけず目刺しと納豆でよしと云う夫

ホテルにていただくフランス料理より食欲すすむわが家のお茶漬け

*夜も深き金坂峠に現れしタヌキが車の道案内す

道きわの藪へ逃げたる雉の子らガサゴソガサと音のみ残る

右左に車体を傾け新緑の湖畔を抜けるライダーの群れ

仕手のつくハイリスクなる銘柄もひとつ余分に求めてみたり

*散策に行き交う子供が「コンニチハ」われも負けじと大声を出す

*短パンの腰をふりふり若き娘が審査委員の前を往き来す

諍(いさか)いて散歩に出れば道きわのクチナシの香が胸に滲み入る

*りんご咲く村里のなか列なして金蔵獅子が戸別に舞い行く

*駆け込みし御堂の庭の山ぼうし驟雨の中に明るく咲けり

アマゴ釣りに誘いてくれし先輩はタラの芽などを摘むひまもあり

*ようやくに掛けたる鮎を引き抜くにタモには入らず頭上を飛びゆく

雷の音近づくに友釣りのアユは益々よく掛かり出す

*「春駒」の唄と囃しに誘われてひとり踊りの輪に入りゆく

梅雨明けて三日過ぎれば秋立ちぬ幼なに水浴びさせるひまなし

「劔岳」その美しさと厳しさに心奪わる映画なりけり

糸先にギンヤンマのメスを付けオスを誘いて捕りたる若き日

ウグイスの鳴くを聞きつつ“ふれあいの森”を通りて温泉に入る

穫り入れも近き稲田を見守れり案山子に替りて大きな目玉が

*草平の「輪廻」刻みし碑のわきに庵は人なく鎮まりかえる

熊笹や湿地の中を梓川上れば到る明神池に

*梓川水底に透く円き石宝石のごときらめきて見ゆ

わずかなるヘソクリ特別会計のワクにて殖やさん妻には内緒で

雲は去り山頂の城夕やみにライトアップでブルーに浮ぶ

ハラハラともみぢ舞ひくる光明寺さん道ゆけばいにしへ想ほゆ

急峻な坂道登りハアハアと善峰寺の山門に着く

*百人のふんどし男がいっせいに北風吹きしく川へ飛び込む

*つぎつぎと事業仕分けは進みゆくランチのメニューはなかなか決まらず

遠くからレンズを向けるその途端サッと水辺を飛び立つ白鷺

冬日落ち茜の空に雲流る垂れたるうす墨ひろがるごとくに

富士川の雁堤(かりがねづつみ)を歩き行く治水工事に想い馳せつつ

冬枯れの雑木林の枝渡る鳥のごとくに飛び回りたし

*買う気なく話し掛ければ絵の値だん半値の六掛けまだまだ下がる(中国にて)

*崖に立ち万歳クリフを覗き込む ガイドにやんわり引き戻される(サイパンにて)

伊吹峰に向いて朝は出勤し夕べに御岳見つつ帰宅す

交差点ウインカー出さずに右折する自己虫どこまで増殖するやら

喫茶店「おひとりさま?」と問わるるに応えず窓辺の席に着きたり

還暦を過ぎてこの方十年は総入れ歯にてピーナツを噛む

ネパールの赤ひげ先生仰った「病を治すは、生活を直すこと」

むらさきの苞(ほう)を開いて達磨さん雪の中から覗いてござる(座禅草)

*裏やぶのウグイス朝から「モー オキヨッ オキヨッ」とわれを急きたててくる

*瓶に挿す芍薬の毬の小さきが日に日に大きくふくらみてくる

*山並みは黄いろにかすみ太陽が銀にかがやく黄砂の吹く日

取引とはジェットコースターに乗る気分上がると思えばストーンと下がる

*低く低く飛び来てパッと立ち上がるツバメの動き株価に似たり

おふくろに出会いし気のして安らけし療養中の嫗を見舞えば

プードルを囲みて若きママたちのおしゃべりつづく秋の夕暮れ

わが妻とイケメンガイドのツーショット撮りてしやれば声はうわずる

大鳥居撮らんとすれば後ろから鹿が近ずきジャケットを咬む(宮島にて)

*野アザミのごと清げなりこの人に触れなば鋭きトゲの刺さるか

明日より六月なればセルフにて半袖シャツにアイロンかける

演奏会出かけて行くのは大儀なり家にてショパンのCDを聴く

*三十年先を見すえて今日を生く「孫」氏に学べ鳩山さんは

*庭の樹の茂みに生れし百舌のヒナわが子のごとし元気に巣立て

むらさきの花弁をびっしり縫い合わせまん丸ボールとなりたる紫陽花

何ゆえに税上げ論議を菅さんは選挙の前に持ち出したのか

*まっ先に防災用のスピーカーに雷が落ち役立たずなる

にぎやかな歓楽街ぬけ緑濃きケヤキ並木のお茶屋に憩う

雷と豪雨は去りていっせいに蝉が鳴きしく今日からわが世と

栄にて「安保反対」叫びつつジグザグデモせし日は遥かなり

シラビソの森を四時間歩きたり朴の木平の湯に汗流す

壱岐市には二百年生く人のありわが日本は不思議なる国

*これからは入定修行の旅に出ん 僅かなる年金糧に暮らせよ(…所在不明高齢者の弁)

その人とは性の会わない仲なれど付き合えばまた得るものもあり

長かりし坂道たどりて岡寺に着けば抹茶のもてなしを受く

*のどかなる橘寺の庭に咲く白き芙蓉に太子を偲ぶ

青い目の人あまたなり高野山奥の院への参道行けば{世界遺産}

はるばると高野へ来たれば伝説の三鈷(さんこ)の松の落ち葉を拾う

裏道はS字が続きてナビ狂い日暮れて着きぬ高野の聖地へ

*「過ちを改むるのに憚るな」阿修羅の眼(まなこ)が訴えてくる

中国語・英語・日本語・韓国語もろもろ飛び交う大仏殿かな{遷都1300年記念祭}

市長派が集めし署名に選管は後出しじゃんけんイチャモンつける{名古屋市議会解散請求(リコール)問題}

政権が弱きと見るや彼の島は自国の領土と言い出すやから

*陽に透きて黄金にかがやくイチョウの葉小判となりて散りしき積もれ

酒粕の効用テレビで取り上げる インターネットですぐ取り寄せる

譜も無しでLiszt(リスト)の難曲弾きこなす辻井のピアノに涙こみ上ぐ

またしても責任能力論(あげつら)う被害者の心情置き去りにして

*住民の心の底に訴えてアッと言わせし市議会解散

*ひとひらの風花ふうわりふうわりと舞い来て君の肩の辺に消ゆ

*対岸に一服している船頭をオーイと手招く小紅の渡し

馬跳ねる夢を見しこと一度だけ入試結果の発表前夜に{古希を迎えて}

    ~ つれづれ短歌(その四) ~

  “鵜の目”のつぶやき