戦争は人の心を偏倚さす平和な国の常識通ぜず

戦場は生きるか死ぬかの修羅場なり部外の者が入りこむ愚かさ

抑止力の効果あるとう核装備持たんとする者云うこと同じ

*勤め終え床につきしに階下では仕事の話まだ続きおり

草平の「輪廻」とう本さがすなりわが故郷の昔を知りたく

「輪廻」読み訪ねてみたり鷺山の「森田草平」生誕の地を

鏡島の弘法さんへ参る人乗せて漕ぎ出す小紅の渡し

過熱せし市況の動き気にしつつ落ち葉踏みしめいつもの道行く

八合目に到れば樹木もなくなりて七竃の実のみが赤く目に染む

散歩する秘かな愉しみ毬栗の落ちていそうな径えらびけり

落葉の木立の中ぬけ山頂へ出づればススキの穂波が光る

*さんさんと日がさす露天の湯に入ればどの顔もみな仏に見える

盆に入りいつもの公園歩く人少なく蝉の声のみ喧し

朝早く人無き寺の境内に入りて甲虫(カブト)を捕りし日遥か

子や孫の健康願いて夕べには近くの瘡神様へ参りぬ

背の丈にカーブミラーはゴミを巻き昨夜の水位の高さを示す

夜半に入り田植え始まる田に蛙鳴く音ひときわ激しくなりぬ

田を起こすトラクターの進行について行きけりアマサギの群れ

鯉のぼり彼方に望み風薫る山の小径をひとり行きけり

*遥かなる眼下にうねる長良川白く光りて霞に消ゆる

*凍てし朝受験に向かう自転車は長良の堤を一列に行く

*白銀に輝く伊吹峰ま向かいに見すえて受験のペダルを踏みぬ

*積もりたる雪に頭を垂れし竹右に左に避けて行きけり

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丹念に植えし牡丹に一夜にて雪積もりけりそっと払いぬ

*カラカラと枯葉が舗道を転げゆく音ひびきけり夜の柳ケ瀬

法事終えわが家へもどれば庭さきの金木犀がひときわ匂いぬ

林間に青きテントが見え隠れ子らの声のみ高く響きぬ

餌を求め遊覧船に迫り来るウミネコたちの目つき鋭し

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奥入瀬に向かいてバスは紅葉の樹海の中を走りに走る

積丹の神威岬の先端に立てばおのずと両手を合わす

オホーツクに沈む夕陽はま横からオシンコシンの滝を照らしぬ

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*オホーツクの海を右手にハマナスの花咲く原を自転車で行く

流星と銀河の滝を分けて立つ不動なる岩ひときわ凛々しき

曇りたる襟裳岬に近ずけば風は強まり視界は失せぬ

空と地の境に立てるシルエットそれは美瑛の「親子の木」かな

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ジャガイモの花咲く美瑛の丘ゆけばま近かに出合いぬ「ケンとメリの木」

風ぬける白樺木立ちの中に立ちポーズをとれば頬もゆるみぬ

札幌の街暮れゆきてテレビ塔ひときわ明るく浮び上りぬ

*山峡の墓前に花を供うれば松風にわかに騒めき立ちぬ

房州に「養老の滝」みつけたり美濃だけに在るものと思いしに

水源地の裏より山へ登るみち記憶をたどりて訪ねてみたり

*梅林の白・緋鮮やかなる色に優柔不断のわが心を恥づ

*娘は街へ下宿したれば雛壇の前に布団を敷きて眠りぬ

ふじ祭り賑わう寺の境内に易者の声がひときわ高し

軒下に去年はじめて巣づくりをしたるツバメか今年も飛び来ぬ

登り来て池畔に出づれば爽やかな五月の風に額の汗ひく

この先の滝に出でむと下り来て緑の淵にしばし憩ひぬ

はるばると美濃より訪ねし身にあれば歩きて渡る天の橋立

赤色の煉瓦づくりの倉庫群蔦に覆われ静まりかえる

夕闇に明るく浮きたつ月見草はるかなる日の君を想いぬ

夏すぎて草もみじ敷く尾瀬のみち少年時代にかえりて歩けり

目あてなる秘境ようやく探しあてコーヒー飲めば疲れ忘るる

ハーブ茶と言われしカップは次々に香を嗅ぎ廻し飲みされており

*朝まだき中を起きぬけ落葉松の落ち葉うかべし露天の湯に入る

山峡の秘湯に入れば遥かなる江戸の昔に時は戻りぬ

*還暦を迎えて無料となりし湯へ向かう心に寂しさの湧く

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日曜の夜は早めに仕事終え静かなる店でコーヒーを飲む

一枚の古き写真に頬よせて同窓会の話は弾む

ネギ入りのお好みありと書きありて年甲斐もなく買い求めたり

・天に向きまっすぐ太き幹伸ばすメタセコイアのごとく生きたしmikana

日が差せばにわかに紅葉浮き立ちてわが行く参道明るくなりぬ

*孫抱きて険しき石段登るとき一段ごとを確かめて立つ

時うつり過疎となりたる故郷のみかんは今年もたわわに実りぬ

*大道に寝ころびわめく幼な子は人ごとならずわが孫なりき

山かげのこもれ日まだらに差す道は冷気やどりて身もひきしまる

露天なるハーブの湯に入りくつろげば思案の歌も推敲すすむ

損得の如何を問わず取引の成果を語りて良きことはなし

信玄の使いを鵜飼でもてなした信長と知り親しみの湧く

公園を三周めぐりて緑濃きメタセコイアの下に憩いぬ

*新緑の山の辺行けば姿なきホトトギスは鳴く「ホットモッテコイ」

街中に花の香りが満つという季節に訪ねてみたし桂林

城壁のはるか上まで連凧が夜空にうねるライトを浴びて{西安}

手綱など無くとも舟へ戻りくる桂林の鵜のあはれなるかな

*電線に  ブジュ ブジュ ブジュ  とツバメ鳴く声に目覚むる田植えの季節

板取の温泉帰りに通りたる寺尾の桜はいま盛りなり

花婿は人力車に嫁乗せて引く三々九度の儀式を終えて

麗しき枝垂れ桜に魅せられて今宵はわが家に帰りたくなし

弁当を開きし頭上に芽吹きたる枝垂れ柳が風に揺れおり

「好きだよ」と調子に乗れば「私もよ」三味線を弾き惑わす彼女

中国の娘が御手洗の老木に登りて記念のポーズを取りぬ

大好きな「イチゴ大福」取られじと箱ごと抱えて逃げ回る孫

    ~ つれづれ短歌(その五) ~

     “鵜の目”のつぶやき