坂道に老犬を引く子の有りて年を感じる吾と重ねる(長瀬武司)
夫宛の郵便物が来なくなり居場所決めたか黄泉の世界に(河野かなゑ)
わが家に金が無き事見透かされいまだ無縁のオレオレ詐欺は(土井信雄)
それぞれの自分語りのティータイム取りつ取られつ話題が動く(熊崎佐千子)
どよめきぬ米寿と喜寿がデュエットで「…ふたりは不倫草」と唄えば(井上秀夫)
賀状来る老老介護の主夫だとか富士の雪晴れ心を写す(古田司馬男)
地産品送りし返礼都会からおしゃれなスカーフ我身を彩る(川島綾子)
誰となく「頑張ってるね」と歌作りペン執る思い軽くなる時(小椋勝宏)
離れ住む娘の老後を案じおりわれの余生も短かくなりて(鈴木芙美子)
スマートフォンに夢中になりつつ運転の危険連なる朝の通勤時(安田武子)
居る筈の席に人なく月おくる空しさつのり退院の日待つ(大西富士夫)
食事する?何が食べたい?主夫われに「何でもいい」は何とむずかし(鈴木光男)
長生きはのぞんでいないと言いつつも除夜の鐘聞き無事を願えり(久野高子)
陛下とは三日違いの誕生日弟は今こんこんと眠る(丸山節子)
もういくつ寝ると正月それまでに風邪の神をば追い出さんとす(佐野きく子)
ゆきがふる四代揃って初詣幸せを謝し平和を祈る(山田テル子)