六百人祝賀の会で黙祷し豪雨被害の人人悼む(長瀬武司)
花柚子を二つに割って湯をそそぎ甘みを入れてゴクゴクと飲む(井上秀夫)
満月は二十五日出でもせでザンザザ雨が闇をたたけり(熊崎佐千子)
新築の杉と桧のよき香りやがて住むべき家主が継がん(古田司馬男)
そそくさと小鳥来て去る隣の庭覗き見ながら短日暮れぬ(小椋勝宏)
コレラ死の猪のニュースの地に住みて栗山に入れば猪に恟恟(川島綾子)
秋の夜は虫の音だけで淋しいねイビキの伴奏あれは去年までか(山田テル子)
電話にて幼なじみの声聞けばすでに心はふる里の村(土井信雄)
覚束ない日本語喋る孫娘飛騨で職得て頑張っている(大西富士夫)
平成の年号やがて終わりとなり三代を生きる我等戦前派(大西富士夫)
ボランティアは自分のためと心から思えることを喜びとする(鈴木芙美子)
天然のしめじを入れてご飯をたく忘れられないあのおいしさは(丸山節子)
探しいて鏡の前に立ちどまり首にかけたるめがね見つける(久野高子)
またぞろと乾燥肌が疼きだす掻きすぎ禁止ぞ冬のともだち(鈴木光男)
対面の座席の女性もくもくと鏡片手に顔つくりゆく(鈴木寿美子)
万松館の敬老会に招かれぬ九十年を生き永らへて(佐野きく子)