八 月 例 会 (第五百七十六回)
      (平成三十年八月九日・添削指導)

夜遊びのさ中に降られし老猫が開けて欲しいと玄関に啼く(佐野きく子)

八十余年使い古した我が足を杖に預けてゆっくり歩む(河野かなゑ)

デュエットした九十女性がささやいた「ワタシ施設ヘ慰問ニ行クノヨ!」(井上秀夫)

経典は伝来のままなのかしらお経を聞いても訳はわからず(古田司馬男)

初対面曾孫を抱けば血の通う絆通じたような目差し(川島綾子)

焼け跡のバラック校舎に敗戦を聞きし私は軍国少女(鈴木芙美子)

朝霧に沈みたる街二階より眺むる背なにパンの香の来る(熊崎佐千子)

地震の夜「泊って行けよ」の先輩に感謝しつつも寝つかれぬ床(小椋勝宏)

畑打てば蚯蚓は死ぬと知りながら未必の故意持つわれは畑打つ(長瀬武司)

韓ドラのゆくえにひかれ時刻(とき)過ごし歯医者の予約遅れてしまう(大西富士夫)

絶好の水泳日和のこの陽ざし浮き袋持ち児童の笑顔(安田武子)

好天に庭の草木はのびほうだい男手ほしや男手ほしい(丸山節子)

こぼれ種から咲いた白い花朝顔一輪姉のおもかげ(山田テル子)

他国より押しつけられし憲法と物真似のごと若者の言う(鈴木寿美子)

娘よりばあばの漬物絶品とお褒めのメール “素”使いしに(吉田和子) 

山崩れの恐れがあるとわが地区も避難せよとの勧告にたじろぐ(鈴木光男)

友よりの電話は「声が聞きたくて」 老々介護も五年になるか(大栗紀美子)