電話来て六十代の女性また医療費還付金詐欺に遭ふ(長瀬武司)
女性には禿がいないと言われても遺伝情報個個が持つもの(古田司馬男)
一線を越えてるのかと記者が問う朝の茶の間のテレビの品格(井上秀夫)
捨て難き気に入りの皿亡き夫と幾年経たる思い出語る(川島綾子)
下り鮎食べんとすればわれを見る鮎のまなこに箸は止まりぬ(熊崎佐千子)
われの活気意欲を何が持ち去りし「酉」七度目が現実的に(安田武子)
楽しいねむかし杵柄独楽まわしよく見ておけと孫に教える(小椋勝宏)
入院の孤独に耐えて半ヶ月お彼岸花の赤にも逢えず(大西富士夫)
病室に母を残して通いし日々バス停みるたび思い出しおり(鈴木芙美子)
みどりごをじっと見詰める孫娘これぞ母親われ母を知らず(鈴木光男)
意に染まぬ者はバッサリと切り捨てる戦前国家に戻りゆく気配(鈴木寿美子)
来年もこの半袖を着てほしい病む夫のシャツプレスしている(河野かなゑ)
早朝に墓参りに行き風もなく彼岸花の満開が見ゆ(福田時子)
亡き夫の知らない孫やひまごらに祝ってもらう米寿のわれは(丸山節子)
優雅なるバイオリンの演奏に酔いしれて生きる励みになりぬ(久野高子)
敬老の集ひに行かずカラオケの迎へを待てりうきうきとして(佐野きく子)
移りゆく季を知らせし彼岸花夫の看とりに一途だった日日(小原千津子)