通るたび暗き窓口人はなく電車改札わが時刻表(小椋勝宏)
スーパーで丸くなったねと友より来久しぶりに会い病気の話(川島綾子)
文芸祭近隣各市へ種を蒔く花の咲く日が楽しみである(古田司馬男)
夕ぐれの庭にゆらゆらつり下がるフウセンカズラの緑の風船(熊崎佐千子)
山麓の墓に眠れる人あまた中には我より若き人も還らず(河野かなゑ)
蝉の鳴く原爆の日のいく度か核廃絶を願いて老いぬ(鈴木芙美子)
近ごろは外国人が目に付いて飛騨の高山さるぼぼ人気(長瀬武司)
線状降水帯なる聞きなれぬ言葉に惑う梅雨の列島(大西富士夫)
むせかえる強き香りをを放つなりカサブランカの花咲きそろい(井上秀夫)
爽やかな青空少ないこの夏は北にどんより黒き雲わく(安田武子)
いくつもの坂を越えて卒寿なり今は幸を感じるこのごろ(福田時子)
子の住まふ郡上大和を尋ね来ぬ山峡深く水すがしかり(佐野きく子)
売り言葉には買い言葉にてその果てはどうなることか 終戦記念日(久野高子)
盆過ぎてすがしき庭にまた一つ白い朝顔姉のおもかげ(山田テル子)
とぼとぼとシルバーカー押し医者通いそれでもよいか一人で行ける(丸山節子)
若き日の独身寮のMさんはラジオ大好き 四人部屋だった(鈴木光男)
咲き並ぶ百日紅の色あかあかと万緑のなか夏を色どる(鈴木寿美子)