四 月 例 会 (第五百六十回)
                     (平成二十九年四月十三日)

吾が家傍の川浚へられ水澄みぬ奉仕の汗にて春を呼び込む(長瀬武司)

シャンソンを聴きつ記憶を繰りなぞるパリの地下鉄乗りこした日を(熊崎佐千子)

鎮魂の祈り捧げむ寒空の鉢伏山に散りし九人(大西富士夫)

生れしより休まず刻む心臓の打つ音を聴くいとほしきかな(横山 稔)

お勤めか旅に出るのか朝早く家の前行くハイヒールの音(井上秀夫)

蕗味噌は老いの味だよ渋味あり妻の手作り晩酌の友(古田司馬男)

抜歯する覚悟で来たる歯医者なれいきなり麻酔にわれはたじろぐ(鈴木光男)

清張が生きてゐるならいかに描く森友学園の奇怪な事件を(鈴木寿美子)

ぼろぼろのズボンの男と今朝も会う挨拶しようか迷いて過ぎる(鈴木芙美子)

東京の五輪は見られぬと思いしがもしかしてわたし生きているかも(河野かなゑ)

気前良く白菜ほうぼうに分配し選外品が畑に残る(川島綾子)

鶯が一鳴きすればせせらぎの音止まるほど山に響けり(小椋勝宏)

年ごとに気力体力とみに落つ子の友くれし励ましの手紙(丸山節子)

庭先にやさしく咲いてユキヤナギ今年も春のおとずれ告げる(福田時子)

常夏の長期滞在病室もハワイと思えば心楽しき(山田テル子)

彼岸会の長き読経をきき乍らしみじみ見上ぐ天井の血を(小原千津子)

施設にて将棋に向かう昼さがり窓の外には春の陽の射す(佐野きく子)

鶯の初音に何を聞きとらん春の強さと新しき道(安田武子)