猪が掘って食べたる筍ののこり少しを探して食べる(丸山節子)
今年また六八桜に立つ古老瞬きもせず二言三言(小椋勝宏)
幾たびも同じこと云う友といて淋しさのわく桜見に来て(鈴木芙美子)
烈風に打たれて豌豆手を取れば柵結うそばから虎落笛生む(川島綾子)
情けなや書けた漢字が浮かばない八十路の海馬は時々サボる(古田司馬男)
鶯の声聞こえ来る野菜畑鍬を杖とし一休みする(河野かなゑ)
今日中に退院思うとなんとなく心残りす全開の窓(鈴木光男)
赤信号とことこ一人わたりゆく老女はいかなる世界を歩ゆむ(鈴木寿美子)
桜ふぶき緑の色増す樹々見上げ遠ざかりゆく春を見送る(安田武子)
無線機を負うて警官つぎつぎと伊勢の大橋渡り消えゆく(長瀬武司)
年金の暮らし次第にきびしくてリハビリ減らせばひざ腰痛たし(久野高子)
「一週間竹薮で寝た」幼き日祖母より時々聞きたる話(小原千津子)
留まり木を川鵜と白鷺住み分けて狙う小魚共に分け合う(大西富士夫)
長いこと仕事も出来ず日がすぎてやっと仕上げた上衣一枚(福田時子)
模倣して何とか書けるよわが短歌未知の世界で暗中模索(山田テル子)
ヤマブキの黄の枝垂るる里山を大田道灌憶ひて歩む(横山 稔)
枯れたかと諦めゐたる庭先の錦木にけさ新芽を見たり(佐野きく子)