トラックの助手席に乗るわが妻はワンちゃんのごと外を見ている(井上秀夫)
SL(エスエル)の車窓に拡がる大井川鼻つく煤煙青春かえる(大西富士夫)
貼り薬貼りたいところに手は行かず誰か助人欲しくなる夜(川島綾子)
病院の待合室で高齢者右も左も杖がたより(福田時子)
忘れもの取ってくるまで待っているわが七階のエレベーターよ(鈴木芙美子)
首長はミスを認めて謝罪する地震予測は指揮者魂(長瀬武司)(脇原貞子)
報復はまた報復を産むのみぞ今こそ「言葉」を心温める(横山 稔)
枯葉舞うお寺のベンチにお年寄り「テロは許さぬ」と言葉広がる(安田武子)
卓上の柿の色見て泛べをり屋根より採りし古里の柿(佐野きく子)
シルバーカー買ってもらって半年余いまだ廊下においたままなり(丸山節子)
鬼婆が尻餅ついて痛いと言う我は見ぬ振りおかしさを噛む(古田司馬男)
せかせかと歩きし母の足音のおりおり聞ゆ夕べのしじま(小原千津子)
隣屋にはためくTシャツ年毎に大きくなりてわれを見下ろす(河野かなゑ)
「一億総活躍」われも一億の一人なり認知予防をしきり聞き入る(久野高子)