あな忙し東目差しジェット機の入道雲を突き抜けてゆく(長瀬武司)
ただひとり嫗が留守番する店でいただく饅頭のクリの大きかり(井上秀夫)
甲子園アルプススタンド入れ替わり地元の応援猛暑に負けず(古田司馬男)
戦死せし兄に一途の母常に生きていたなら生きていたなら(川島綾子)
ふるさとの戦時の後を巡り観る 懐古が消えて押し寄せる悔悟(横山 稔)
夏空の遥か遠くに槍ヶ岳登りし時の友を浮かべる(脇原貞子)
金華山真白き靄を身にまといまさに話題の天空の城(大西富士夫)
世界に向けこれでどうだと巧みなる言葉並べて総理の談話(鈴木寿美子)
猫二匹家族となりて十五年帰りたるらしノックの聞こゆ(佐野きく子)
朝の雨にうたれて冴えるサルスベリ色鮮やかなピンクに映える(福田時子)
お隣りと「久し振りね」と言い合えり暑さにこもりて過ごすこの夏(小原千津子)
ひい孫は三人揃い男の子この子の行く手に戦いのなきを(丸山節子)
離れ住む子も帰り来てゴロゴロと母のかたえに昼寝している(鈴木芙美子)
清水湧くふるさとの渓恋しかり米つく水車今もあるだろうか(河野かなゑ)
灼熱の高校球児の戦いも台風も過ぎ虫の音聞こゆ(久野高子)