九  月  例  会  (第五百四十一回)
           (平成二十七年九月十日)

あな忙し東目差しジェット機の入道雲を突き抜けてゆく(長瀬武司)

ただひとり嫗が留守番する店でいただく饅頭のクリの大きかり(井上秀夫)

甲子園アルプススタンド入れ替わり地元の応援猛暑に負けず(古田司馬男)

戦死せし兄に一途の母常に生きていたなら生きていたなら(川島綾子)

ふるさとの戦時の後を巡り観る 懐古が消えて押し寄せる悔悟(横山 稔)

夏空の遥か遠くに槍ヶ岳登りし時の友を浮かべる(脇原貞子)

金華山真白き靄を身にまといまさに話題の天空の城(大西富士夫)

世界に向けこれでどうだと巧みなる言葉並べて総理の談話(鈴木寿美子)

猫二匹家族となりて十五年帰りたるらしノックの聞こゆ(佐野きく子)

朝の雨にうたれて冴えるサルスベリ色鮮やかなピンクに映える(福田時子)

お隣りと「久し振りね」と言い合えり暑さにこもりて過ごすこの夏(小原千津子)

ひい孫は三人揃い男の子この子の行く手に戦いのなきを(丸山節子)

離れ住む子も帰り来てゴロゴロと母のかたえに昼寝している(鈴木芙美子)

清水湧くふるさとの渓恋しかり米つく水車今もあるだろうか(河野かなゑ)

灼熱の高校球児の戦いも台風も過ぎ虫の音聞こゆ(久野高子)

手を触れず角度あちこち品定め紅色匂う桃の収穫(安田武子)