それぞれに喜寿の顔して集まれど昔と変わらぬ口調の友等(鈴木寿美子)
右見ても左を見ても桜花そぼ降る雨の風情を詠みたし(川島綾子)
寝ているや否やと耳もと旋回し確かめに来る憎っくき蚊のやつ(井上秀夫)
目と足に老いの知らせがあるという八十路の我は時々躓く(古田司馬男)
宵の宮神輿の上に立つ女リズム感あり粋に振舞う(横山 稔)
鳥羽川の澱みに浮かぶ花筏鯉が集まり水面を乱す(大西富士夫)
通学路今日も黄色い旗を持ち孫に負けじと声をかけていく(脇原貞子)
戦艦大和の乗組員と口癖の学校長をふと思い出す春(長瀬武司)
友二人施設に入りしと伝え聞く下手な歌など書きて又消す(河野かなゑ)
保守県も女性がトップで当選す元気を出して朝の体操(鈴木芙美子)
今日もまた無事に生きたり明日はすこし多く歩いて新緑見たし(福田時子)
吾が畑の春菜一面花盛り留守にしたれば蝶々のとぶ(丸山節子)
かっての日八十路の母を老いたると眺めしにいまわたしも八十路(小原千津子)
暮れなずむ色彩と光に吾をかさねよい日なりしと愛しく思う(安田武子)
城山に馬酔木の花が咲き居むか夫在りし頃よく登りたり(佐野きく子)