十  一  月  例  会  (第五百十九回)
    (平成二十五年十一月十四日)

譜もなしでリストの難曲弾きこなす辻井のピアノに涙こみ上ぐ(井上秀夫)

ハ(萩)・ス(尾花)・キー(桔梗)・ナ(撫子)・オ(女郎花)・フ(藤袴)・ク(葛)と称え草を観る秋の七草春より難し(横山稔)

チンチンと鳴らして自転車通り過ぐ杖つく吾に児らの挨拶(出町昭子)

私の名前が載ってる文芸欄思わぬ人の励まし受ける(古田司馬男)

三世代暮らして来たる海女の家あわびの育つ磯を庭とし(長瀬武司)

早く着く事を一途に考えて「のぞみ」に乗ればやっぱり早い(鈴木寿美子)

紅葉をたっぷり描き飾る絵にガラス戸通しまぶし冬の日(安田武子)

老々の介護に疲れし友よりの電話切れても眠られずいる(鈴木芙美子)

鶺鴒(セキレイ)の三日続けて庭に来るなにか伝えることのあるかに(梅村成佳)

夫在らばさぞ驚かむ人前にて黒田節唄ふこのわれのこと(佐野きく子)

子供らは元気いっぱいの歌声で一人暮らしのわれらを励ます(丸山節子>

鳥羽川に夜明けの霧が満ちみちて灯(アカリ)も見えぬ白に身を置く(大西富士夫)

同窓と七十年を巻き戻し話は尽きぬ秋の夜長を(河野かなゑ)

日傘さし足元ばかり気にかける土手に真赤な彼岸花じぇじぇじぇ(久野高子)

風にのりほのかに香る金木犀秋のおとずれつげくるように(福田時子)

三回忌終えて漸く読み返す看取りの日々に記せし日記(小原千津子)