底知れぬ解放感に満たされて町中が湧きし憲法発布の日(鈴木寿美子)
右に切るハンドル怖い新政権それでも乗るのか自民の車に(河野かなゑ)
宴会の最後を〆る河内節オバチャンたちが皆踊りだす(井上秀夫)
花火もう終っちゃうよと呼びにくる夫を断り音を聞くのみ(出町昭子)
石拾う動作を見せればいち早くアホーアホーとカラスが逃げる(古田司馬男)
黙とうの高校野球の甲子園戦争放棄が受け継がれゆく(長瀬武司)
こらえずに溢るる涙は出し給え一途で美し敗者の涙は(横山稔)
ようやくに盆僧帰り冷蔵庫にひとつ残れるアイスクリーム食べる(鈴木芙美子)
鳴いていい生命短し蝉の声立秋の来て吾子三回忌(安田武子)
エアコンの二十八度を消して立ち窓を開ければ朝風涼し(福田時子)
我れ生きる八十路半ばを妻笑うよどを拭えるしぐさを真似て(梅村成佳)
娘らのふる里帰りは今年もなく盆の読経すひとり座りて(久野高子)
三十五度続けば散歩は日暮れ時か細き月の日々太りゆく(小原千津子)
庭先へこおろぎやっと秋運ぶ連続記録の猛暑日越えて(大西富士夫)