採りたての蕗のうぶ毛のやわらかさやさしきものが春の野に満つ(出町昭子)
太陽光発電ブーム到来かどこの屋根にもパネルが目につく(古田司馬男)
師の歌集を夫は先に抱えこみ床の中にて読み返しをり(鈴木寿美子)
年末に妹のくれしシクラメン赫々と咲く桜散る今日(鈴木芙美子)
子に譲るために建てたるこの家も雑草繁る廃家となるか(河野かなゑ)
ボストンに娘家族が住みおれば他人事には思えないテロ(長瀬武司)
雑談にワサビ効かして効き目見ればだんまりの友はジョーク放てり(横山 稔)
かぶら持ち株価上がれのパフォーマンスわれ持つ株はマイナス多し(久野高子)
自転車の通学生に声かける「気をつけてね」に「おっす」と返事 (安田武子)
外つ国の旅人の踏む石畳妻籠へ続く馬籠の山道(大西富士夫)
庭先の著莪に満天星きんせんか佛花に困らぬ季節となれり(佐野きく子)
賜わりし春一番のたらの芽を食べる夕餉を楽しみて待つ(丸山節子)
八十才すぎの身だしなみ美容院へ行くのにも私はタクシー(福田時子)
ひそやかな雨音に夜半耳澄ますお湿り欲しいと畑が待ってる(小原千津子)
襷した剣舞の若き日の写真米寿を生きてしみじみと見る(梅村成佳)
柴又の駅で降りれば寅さんが帝釈天へ案内をする(井上秀夫)