八月例会(第五百四回)
    (平成二十四年八月九日)

瀬を下る舳先が分ける波がしら冷たき水が顔にもかかる(井上秀夫)

風光る五月六月早や過ぎて節電の夏うちわを探す(後藤清子)

義務違反 告知票が身に沁みて座ると直ぐにベルトを着ける(古田司馬男)

何時の間にか姿を消した親子燕噂も消えて巣を見上げおり(長瀬武司)

つゆ草の花の青色いとほしく草刈るときに残しおきたり(佐野きく子)

世界一長寿の国に老いて来て子に伝えたし老いの寂しさ(鈴木芙美子)

まあるい黄四角い赤に黒・ピンクふらふらさっさ下校の子ら(安田武子)

さよならを言いに来たのかツバメ等はひと時騒ぎて南に飛び立つ(加藤朝美)

反対の声あちこちに上がるなかオスプレイ今朝岩国に着く(河野かなゑ)

花咲けば小さき百合なり藤色の垂れて連なるぎぼしの花は(出町昭子)

多彩なる紫陽花の咲くあじさい寺「あじさい」といふ菓子で一服(鈴木寿美子)

暮れなずむアンテナ支えにかけた蜘蛛あわただしくも動きまわれる(梅村成佳)

やまい持つ弟のため善光寺の胡瓜封じの胡瓜を埋める(丸山節子)

竹槍で対わんとせし日もありき勝つと信じたあの日々遠し(小原千津子)

稜線を紅の筆にてなぞるように東の空に夜明け近づく(大西富士夫)

朝焼けに東の空が茜色思わずしばし見とれてしまう(福田時子)

見ぬふりし厨に立てり朝も夜もいじめ自殺の映像ばかり(久野高子)

樹液吸ふ蝉のごとくに木を抱きて屈伸の男を今朝も眺むる(横山稔)