白内障手術終って天井が一瞬チラリ胸のときめく(梅村成佳)
寝床からすんなり起きれるありがたさ腰の痛みもしばらく無くて(古田司馬男)
うつむいてシルバーカーを押す人を引きとめる吾も杖を突きつつ(出町昭子)
秋天にさそわれ出で来ベンチにて見知らぬ人に会釈している(後藤清子)
舞う枯葉幽かなささやき残しゆく悲しみ遠ざけ新春(はる)と向き合う(安田武子)
三月に金沢へ越す孫たちとつくり笑顔で寿司食べてゐる(長瀬武司)
がんばりし一本松の命終へ伸びし若芽にわが夢託す(鈴木芙美子)
行楽に行きたき気持ちを抑えつつ終日屋根にペンキを塗りぬ(井上秀夫)
寒空に従姉見舞へば白じろと四季ざくら咲く土蔵の前に(佐野きく子)
神風が吹くと信じたあの時代朝のドラマの昭和に見入る(河野かなゑ)
清里のまろやかな牛乳味わえば浅間見ていし人を想えり(横山 稔)
愈々か東濃揺らす昼地震安全中部へ警鐘鳴らす(大西富士夫)
消費税の賛否の喧騒つづく暮れ鏡餅さえ迷いつつ求む(久野高子)
石蕗の花首すっと立ちあげて来るべき冬にたえうる様なり(福田時子)
一才の弟の遺影をそっとおきテレビの漫画を見せている兄(丸山節子)
赤白のポインセチアが乱れ咲く黒砂海岸常夏の島(加藤朝美)
二十余年前に逝きにし母の文字ひらがなでノートに書きたる心経(小原千津子)