十一月例会(第四百九十六回)
    (平成二十三年十一月十日)

なじみたるマウスを筆に持ち替えて
なぞり書きする「般若心経」(井上秀夫)

原発の事故収束のメドが立ち私はホッと胸撫で下ろす(古田司馬男)

直球をキャッチする事出来ずしてやっぱりわたし期限切れなり(後藤清子)

「赤い色少し入ってもいいですよ」せんい祭りに元気をもらう(出町昭子)

金色の稲穂を見ると思い出す馬の鼻とりした頃のこと(長瀬武司)

確実に別れの時は来るのだとあらためて思ふ夫の急病(鈴木寿美子)

新刊が古本百冊で買えるのか思い砕かる五十円玉一個(安田武子)

銀杏を足踏みつぶす丸桶をたまさかに実が飛び出してゆく(梅村成佳)

「ハスキーなお福」と暗記の七草の一語となえて一草思う(横山 稔)

樹の天辺我が物顔で座を占めて深まる秋を百舌告げまわる(大西富士夫)

孫の出る運動会に娘の夫婦横浜まで行く秋晴れ日和(丸山節子)

動かねば寝たきりになり死ぬだけと痛み止め飲みプールに来る友(鈴木芙美子)

産院を退院をしたばかりのみどり児の元気な泣き声電話の向こうに(加藤朝美)

俄雨に少し派手目の傘求め帰り来る道欝のほぐるる(小原千津子)

住む人のなき屋敷跡荒れ果てて石垣だけが今も残れり(河野かなゑ)

金木犀の香りに季節知らされてカレンダーくれば山は燃えてる(久野高子)

わが宗旨と異なる本願寺派なれど和尚の法話しみじみと聞く(佐野きく子)

金木犀満開に咲いて秋日和匂い香しく窓辺にただよう(福田時子)