頂きし一個の桃と夏水仙友の帰りて心に沁みる(鈴木芙美子)
原発と云う玉手箱の蓋外れ出てくる主は放射能なり(井上秀夫)
大型ののろのろ台風逃れたるわが里の田の稲穂垂れゐる(鈴木寿美子)
ここかしこコスモス咲きて駆けてゆく行く先ざきに母の声する(井上まさよ)
閉ざされし心の裡を覗きたし背丈のみ孫は我を追い越す(河野かなゑ)
死んでない 仕事にサッカー目まぐるしく生きているんだドイツの街で(安田武子)
乗り継いで又乗り継いでローカル線青春切符で歴史も教わる(大西富士夫)
災害の多き年なれ何ごともなきがごとくに月は輝く(丸山節子)
角界は国際親善担ってる白鳳 把瑠都 臥牙丸 魁聖(古田司馬男)
野分あと縁に入りたる雀蜂を風に乗せやる 女王なりしか(出町昭子)
雲間からぽっかり出てきた満月は介護に疲れたわたしを癒す(小原千津子)
あんなにはあんな風にはなりたくないでもわからない先の事はね(後藤清子)
日本の原風景の紀州路に深層崩壊集落のみこむ(加藤朝美)
この菩薩悲劇の皇子と聞くほどに悲哀に変わる笑みし口もと(横山稔)
なでしこの金の感動五輪でもこの目で見たいと治療に励む(久野高子)
好きな酒飲めよと母は墓に供うシベリヤの地に散りし息子に(長瀬武司)
泣きじゃくる声が補聴器外させる妻は目配せ我に伝える(梅村成佳)
朝夕に涼しくなって虫の声なぜか淋しく感じいる日々(福田時子)