十月例会(第四百九十五回)
(平成二十三年十月十三日)

頂きし一個の桃と夏水仙友の帰りて心に沁みる(鈴木芙美子)

原発と云う玉手箱の蓋外れ出てくる主は放射能なり(井上秀夫)

大型ののろのろ台風逃れたるわが里の田の稲穂垂れゐる(鈴木寿美子)

ここかしこコスモス咲きて駆けてゆく行く先ざきに母の声する(井上まさよ)

閉ざされし心の裡を覗きたし背丈のみ孫は我を追い越す(河野かなゑ)

死んでない 仕事にサッカー目まぐるしく生きているんだドイツの街で(安田武子)

乗り継いで又乗り継いでローカル線青春切符で歴史も教わる(大西富士夫)

災害の多き年なれ何ごともなきがごとくに月は輝く(丸山節子)

角界は国際親善担ってる白鳳 把瑠都 臥牙丸 魁聖(古田司馬男)

野分あと縁に入りたる雀蜂を風に乗せやる 女王なりしか(出町昭子)

雲間からぽっかり出てきた満月は介護に疲れたわたしを癒す(小原千津子)

あんなにはあんな風にはなりたくないでもわからない先の事はね(後藤清子)

日本の原風景の紀州路に深層崩壊集落のみこむ(加藤朝美)

この菩薩悲劇の皇子と聞くほどに悲哀に変わる笑みし口もと(横山稔)

なでしこの金の感動五輪でもこの目で見たいと治療に励む(久野高子)

好きな酒飲めよと母は墓に供うシベリヤの地に散りし息子に(長瀬武司)

泣きじゃくる声が補聴器外させる妻は目配せ我に伝える(梅村成佳)

朝夕に涼しくなって虫の声なぜか淋しく感じいる日々(福田時子)

此処をわが終の住処に定めんか日当りのよき平屋に移る(佐野きく子)