八月例会(第四百九十三回)
 (平成二十三年八月十一日)

ジャガイモの小粒集めた煮ころがし美味しいと言えば妻が微笑む(古田司馬男)

復興の利権をめぐる争ひと思へてならぬ政治の世界(鈴木寿美子)

スェーデンに撫子ジャパン勝利まで後三分のロスタイム長し(河野かなゑ)

感動の黄金のシャワーを浴びながらなでしこジャパンのさわやかな笑顔(加藤朝美)

絵の気分時が過ぎても失せぬもの吾も座りたし「夜のカフェテラス」(安田武子)

梅雨もあけ庭木の緑深まれど今年は蝉の鳴き声きけず(福田時子)

歳々に人の愛しく年々に山美しくわれに応ふる(鈴木芙美子)

夜叉壁にニッコウキスゲを侍らせて山開きする伝説の池(大西富士夫)

雨の音松風の音鳥の声茶筅ふる音も風情はあらず(久野高子)

支柱よりのびたる蔓は行きばなく下に向いて曲り胡瓜なる(丸山節子)

立ち上がり雨水を受けるそぶりして蜥蜴が客に顔見せをする(梅村成佳)

「よう来たなあ」いつもの姉の声はなく形見の短冊もらいて帰る(小原千津子)

おじいちゃまと一しょにどうぞとかき氷捧げ持ち来る向いの坊や(出町昭子)

男孫の焼いてくれたる目玉焼きすこしくずれてお多福の顔(後藤清子)

抱かれんと初対面の幼な子がもろ手をわれにさし出してくる(井上秀夫)

焼夷弾にも遭わずに生きて七十五歳 従兄弟は十歳壕に居て死す(横山稔)

兵の放列敷きし吉田川今友釣りの竿が連なる(長瀬武司)

招きくれしかっての児童と酌み交はす小瀬の川面に篝火の映ゆ(佐野きく子)

祖国への船を幾たび見送りし高台に立つ白き異人館(井上まさよ)