被災地は新たな悩み限りなし我変わりなく寝坊している(鈴木寿美子)
さ庭べのあちらこちらに福寿草灯りをともす家族のように(後藤清子)
新緑に揺れいる白きハンカチのその一枚をそっといただく(井上秀夫)
稲葉山を黄金で飾る椎の花匂いも乗せて夏を知らせる(大西富士夫)
三つ四つ咲きたるサツキ愛しむ父さんそちらも花咲きましたか(井上まさよ)
「雪みたい」幼なの声に足を止めおしゃべり始まるなんじゃもんじゃの下(安田武子)
やれ刈るなキジがいきなり飛び立てり草の中には卵が五つ(長瀬武司)
拳にて涙をぬぐう男泣き育てし牛との悲しき別れ(丸山節子)
萌え黄いろ命湧くいろ初夏のいろ磨墨の里の山が笑えり(横山稔)
我のみが病あがりの不安感じリハリビをする日々が続けり(福田時子)
ソロバンで億の計算出来た人子供返りで何もわからず(加藤朝子)
親の年越えて八十路に近づけり今年も庭に芝桜咲く(河野かなゑ)
人一倍暑さに弱い夫ゆえ今年の夏の節電案じぬ(小原千津子)
けろけろと青蛙鳴き黄楊の葉にとかげ顔出すあたりまえがよし(出町昭子)
にこにこと笑顔の老女を押す人の疲れし様子で急ぎ過ぎゆく(久野高子)
故郷のうた麦笛の聞こえくる転校児童仲間にありて(梅村成佳)
庭先の花つぎつぎと咲き誇り病み上がりのわれを癒してくれぬ(佐野きく子)