五月例会(第四百九十回)
    (平成二十三年五月十二日)

家を呑み漁船を倒し街中をうねりて襲う黒き津波よ(鈴木寿美子)

お経中呆けたる仕草思い出す今日は夫の十三回忌(後藤清子)

半熟の卵茹でたる刻思う指文字宙に姉の「かずみ」と(梅村成佳)

原発の安全性の危うさは車の「…だろう」運転のそれ(井上秀夫)

寄り添わむフクシマ五十の主人にもいろいろあると語る好江に(横山稔)

目に見えぬ放射能汚染に家を捨て家畜をのこし住民たちは(加藤朝美)

咲き終えて川面流れる花びらを川鵜邪魔して筏を乱す(大西富士夫)

予定表こなしつつ過ぐる日日早し長寿桜の持ち時間ありや(安田武子)

涙ふき「うさぎ追いし…」を歌いおり帰りたいなーと被災の少女(久野高子)

ゾンビのごと襲いかかりし放射能逃げる場所なき地震列島(鈴木芙美子)

夕暮れて手すりに布団干されいる隣家を見上ぐ帰宅まだらし(出町昭子)

蝶の舞うごとく舞い散る花びらを目に追い思う被災地のさくら(小原千津子)

雑草の茂れるままの畑に来てたらの芽を摘み春を味はふ(佐野きく子)

寝たきりの母は蕗みそ味見する合格点は今年もお預け(井上まさよ)

知多に来て鴎の群れの行く先を追いつつ妻と岬に佇む(長瀬武司)

春眠は何と起きにくく八十路なる身にはあちこち痛みもありて(丸山節子)

車椅子押しいる人は誰なるや嫁か娘か介護の人か(河野かなえ)