十月例会(第四百八十三回)
  (平成二十二年十月十四日)

命日に空から下りし母の風彼岸花の赤撫でて過ぎ行く(河野かなゑ)

門歯二本抜けた子供が柿齧る遠い昔を見ているようだ(長瀬武司)

縁のなき人の名前を削除せりケータイに見るわれの価値観(鈴木芙美子)

のり子さん初盆ですね気をつけて高速渋滞しているからね(後藤清子)

凛として県境に立つ冠山麓のむらを水に沈めて(大西富士夫)

国旗踏まれ小日本と侮られそれでも言うか「粛々、冷静」と(横山 稔)

長椅子に亡き人座りゐる様な気配覚ゆる残暑の夕べ(佐野きく子)

補聴器を付けても解らないドラマ妻と見ているもどかしさ知る(梅村成佳)

これからは入定修行の旅に出ん僅かなる年金糧に暮らせよ(所在不明高齢者の弁)(井上秀夫)

湧きて流る同じクオリア無き雲に重ねる心の重さはそのまま(安田武子)

つんつんと芽を出し茎出す彼岸花燃え立つ赤は彼岸忘れず(丸山節子)

違へずに約束守るかのごとく彼岸花咲く誇らしげに咲く(鈴木寿美子)

女郎花りんどう咲きいし山裾は団地となりて家建ち並ぶ(加藤朝美)

彼岸花咲く名鉄線今はなく彼岸詣りも行かず幾とせ(小原千津子)

敬老のお祝いに届きたるタオル一人の夜の不安は消えず(久野高子)

早朝に歩けば小さき虫の声ふと立ちどまる初秋を感じ(福田時子)

めい想の小径にもあり「猪注意」屈強な男の後につき行く(出町昭子)