九月例会(第四百八十二回)
    (平成二十二年九月九日)

短パンの腰をふりふり若き娘が審査委員の前を往き来す(井上秀夫)

帰省せし孫に問ひをり七十代「第二放送の英語聞くとね」(出町昭子)

人里に遠き峠の地蔵尊帽子と涎(よど)掛け誰が贈りし(河野かなゑ)

ひとひらの風が心に浸みわたる夏の終わりのこの淋しさよ(鈴木寿美子)

炎熱の真っ赤に沈む太陽に十三夜の月負けず赤かり(林 志げ)

つれあひの四十九日忌終へし今この先如何にわれは生くべき(佐野きく子)

身の程を知りつつ挑む限界が何処にあるや傘寿を視野に(大西富士夫)

紫の煙が天にのぼりゆく墓には新しき花供えられ(加藤朝美)

父の指母の指あり吾の足に見くらべ笑った山の湯懐かし(安田武子)

剥離です緊急オペです院長の声スパッと断つべし佳境の読書も(横山 稔)

三十五度の残暑の続く日々なれど畑の隅のこおろぎの声(小原千津子)

年金の落ち穂拾いの差額金音楽トイレに妻が替えたる(梅村成佳)

白煙噴く焼岳川面に写りいて頂上あたりを鴨がよこぎる(久野高子)

百日紅の花あざやかに赤く咲きふと立ち止まりしばし見とれる(福田時子)

気にかけし役目を終えてひと休み目覚むればもう夕暮れの色(後藤清子)

この夏は熱中症に脅されて省エネもせず秋の風まつ(鈴木芙美子)

救急車で入院したる弟の容体いまだ分からず気になる(丸山節子)

項垂れて汗と涙を拭きもせず土かき集め球児は去り行く(長瀬武司)