百分の二秒で逃げた金メダル女子パシュートにリンクどよめく(河野かなゑ)
対策の遅れなどとは責められぬ人ごとでなし介護の現場(ホーム火災)(鈴木芙美子)
ヒショヒショと春よぶ雨の日もすがら山もお城もふくれて見ゆる(後藤清子)
ひと束の水仙の香り部屋に満つ春を纏いて雪景色描く(安田武子)
山が生み山が育てた分校の校舎は壊され豌豆の咲く(梅村成佳)
Tシャツの青年の手のしなやかに二十五絃の琴を奏でる(鈴木寿美子)
昨日でき今日は出来ないこと多し十秒間の片脚立ちなど(小島美年子)
質草となった子孫に頼んだか 借金まみれの九十二兆を(横山 稔)
玄関に友の声して開けしとき風が連れ来ぬ沈丁花の香(久野高子)
与野党のゴタゴタ続きにうんざりす天の怒りか夜更の春雷(加藤朝美)
待ちくるる友ありわが歌続けたり「若竹第四歌集」手に受く(林 志げ)
前書きの「歌集は心のアルバム」を形見と言いて子らに渡せり(小原千津子)
「どうしてた」問ふてもみたし其の味も忘れてしまった島根産にしん(出町昭子)
「仰げば尊し」聞けぬ卒業式それぞれの歌われはなじめず(丸山節子)
強風に黄砂来たりて空かすみ山は黄色にかすんで見える(福田時子)
翁草とほき日に見し歌集読み白寿の翁に株分ちたり(佐野きく子)