三月例会(第四百七十六回)
(平成二十二年三月十一日)

それぞれに進学する子のお祝いに年金すべて羽生えて飛ぶ(河野かなえ)

ひたむきに手すりに依らず階上る夫に従ふ呼吸はづませて(出町昭子)

わがために求めし土雛小さくて春を待ちいるティシュにくるまれ(鈴木芙美子)

崖に立ち万歳クリフを覗き込む ガイドにやんわり引き戻される(井上秀夫)

蝋梅に誘われ春は目覚めたが三寒四温の壁に二の足(大西富士夫))

向かい合い見詰め合うこと無き雛に心重ねる春の宵静か(安田武子)

二十七年この道通い賞を受く稲いきれの日 吹雪く日ありて(小島美年子)

かしましく朝のランチの南天をついばむ鵯の声を聞きおり(丸山節子)

長良橋渡る市電の音いまだ耳に残れり赤きまぼろし(小原千津子)

虎の軸脇にかかえて帰りきぬその時七十あのころ元気(後藤清子)

「政治とカネ」激論あれど先みえず安いものはとチラシ切り抜く(久野高子)

「星空のブルース」というこのメロディー題名知れり湯舟にハミング(横山 稔)

秋植えのチューリップの芽伸び初め花の咲くのを待ちわびている(加藤朝美)

一番の確定申告グリーン札ポケットの中手はもてあそぶ(梅村成佳)

生きてゐるだけで貴方は金メダル着替へさせつつ夫に告げる(佐野きく子)

年金より天引されたる税金を取りもどしたく申告に行く(林 志げ)

朱いろのひときわ冴える山茶花は散りゆく寂しさ知ってるだろうか(福田時子)

またしても綺麗な事を言ってゐる見え隠れする心の底は(鈴木寿美子)

水の面の白雲映す影をぬけすすっとハリヨの光が走る(大栗紀美子)