あの時の紅葉に映えいし徳山はこの湖の底に沈みぬ(鈴木寿美子)
阿寒湖にまりもの姿見あたらず売店に並ぶ小さきまりも(丸山節子)
目をあけば天井まはる皆まはるまろびつつ呼ぶ ああ夫がゐる(大栗紀美子)
信長と共に楽しむ駅前広場華陽芸者の舞に酔ひつつ(出町昭子)
都会ではススキの鉢植え売られしと庭のススキに月光そそぐ(小島美年子)
手術後に立ちて痛みも感ぜずに足ふみもでき思わず笑まふ(福田時子)
「なぜ鳴くの いっしょに帰ろ」と歌ったのに悪魔にみえるゴミの日のおまえ(横山 稔)
長年の願い叶いし披露宴どのテーブルにも青きバラあり(井上秀夫)
オバマ氏のノーベル賞に拍手する夜のニュースにわれひとりいて(鈴木芙美子)
肩先へ落葉松の雨降りかかり初冠雪の山並み静か(大西富士夫)
小さき孫に振り回されし日も遥か幸せだったと今にして思う(小原千津子)
もも色の赤ちゃんの靴片方がベンチで泣いてる秋の夕暮れ(後藤清子)
目を瞠るただ目を瞠る鮮やかさ燃えたつ色彩の秋の立山(安田武子)
着るものはもう買うまいと思いつつそれでも覗くブティックの中(河野かなゑ)
庭に咲く大文字草に奥飛騨の双六谷の彼の日浮び来(佐野きく子)
夕映えに頬赤く染め子供らは唄うたいつつ家路に急ぐ(加藤朝美)
朝霧の社の手摺りに手を添えて片足ごとに上がりて行けり(梅村成佳)