賑わいしイベント広場の真ん中で玉虫色の鳩の求愛(後藤清子)
新しいアンテナあちこち目につきぬ地デジの電波捉えて立てり(河野かなゑ)
象潟の眺海の湯より眺むれば弧を描きたる水平線の見ゆ(井上秀夫)
ねじねじの回廊つくりもじずりは願いを咲かす天に届けと(大西富士夫)
ポストへの二百メートルを車駆る夜目の気がかり私もおなじ(大栗紀美子)
金華山みどり深まり赤色の三重の塔小さくなりぬ(鈴木芙美子)
四十七歳マイナス十度の富士登頂あんなに運動嫌いだった子が(小島美年子)
丹念に母の作りし浴衣解く解きつつ不幸してる思ひす(鈴木寿美子)
日盛りに真赤にもゆる夾竹桃花に放たむこの腰痛を(久野高子)
梅雨末期東に西に災害がおきて今年の梅雨明けはいつ(加藤朝美)
心地よき政策ずくめのマニフェスト試されているわれの判読(横山 稔)
屈む背に消毒器掛けゆっくりと脚立を上る夫を支ふ(出町昭子)
七年を土の中にてやうやくに羽化せし熊蝉猫くはへ来ぬ(佐野きく子)
中帯の網戸に替えて通りくる風新しく吹き抜けてゆく(梅村成佳)
生い茂る狭庭の木々は軽やかな庭師の鋏に明るくなりぬ(福田時子)
硫黄島皆既日食待つ人ら玉砕の事などまったく忘れ(林 志げ)
首斜め離れ近寄り顔しかめ見る抽象画潜める物あり(安田武子)