七月例会(第四百六十八回)
   (平成二十一年七月九日)

マナーモードの設定忘れ静かなる席に着信われはあわてる(河野かなゑ)

連れだって地上へ降りたふたしずく運命隔てる分水の嶺(大西富士夫)

鵜匠の引く綱につられて懸命に潜りて浮かび鮎を吐き出す(鈴木寿美子)

梅雨空を川鵜の群れが飛びゆけり谷川の鮎呑まれてしまう(林 志げ)

雪の降る季節に再び二人して訪ねてみたし鶴の舞橋(井上秀夫)

涙してさよならした日咲いていた残りのさくら春惜しみいる(後藤清子)

母逝きて二十度目の夏今年また形見を着たり小千谷のちぢみ(小島美年子)

早朝の静寂に透る サクサクと研ぎたての鎌のかろやかな音(小原千津子)

一日も長く生きよと必死にて妻を労わりやつれし弟(丸山節子)

阿修羅もつ身をなだめつつ山の端に赤い夕陽の沈むのを待つ(鈴木芙美子)

桜桃忌来て今だに生きる「人間失格」弱さを曝して太宰は強し(横山 稔)

抱かれた炭の気配は隠されて微かなる風釣り忍ゆるる

水張田にエンジンの音響きいて見る見るうちに田植えの終る(加藤朝美)

良い顔に写ったと夫の機嫌よし一緒にほめてこれは使へる(出町昭子)

池の面を風のうらうら渡りつつ波に光りの星を遊ばす(大栗紀美子)

蜜柑の花散って小さな青い実がここにいるよと葉かげに見える(福田時子)

ミサイルも核実験も後継者も強国作りか飢えを見捨てて(久野高子)

昭和十年高富小へ入学の傘寿の友ら半数は亡し(佐野きく子)

流れくる亡父の十八番の古大尽田植え終りし白川の里(安田武子)