廃校の記念誌届くなつかしき父の名のあり母の名もあり(河野かなゑ)
遥かなる県境の尾根に雪残し萌黄急かせる矢車の音(大西富士夫)
就職内定とはづむ声にて告げて来ぬ母子の家庭に育ちたる孫(加藤朝美)
木漏日のベンチでまたも思いおり歌の言葉の一パイのお茶(後藤清子)
「品プリで連泊なんだ」得意げにあゝあの孫も修学旅行(横山 稔)
採れたての岩ガキ口に含みつつ笹川流れの乗船を待つ(井上秀夫)
花殻を切り終えて見る紛れなく「都忘れ」は母親の文字(梅村成佳)
やわらかき萌黄のベスト編みくれぬ卒寿の姉は形見と云いて(小原千津子)
愛かかげ鳩山さんは平成の兼続なるかまかせられるや(丸山節子)
新ジャガのうま煮をいつもくれし友子に頼らじと施設に入りし(小島美年子)
許し合い慰め合いて過ごす日々おひとり様の老後に感謝(鈴木芙美子)
脱ぎ捨てし苞や古葉の溜りつつ楠の若葉は陽を浴び躍る(出町昭子)
一本のさつまいもの苗持つ子達おずおずと土に手を触れて居り(鈴木寿美子)
けたたましく蛙鳴きだし俄かにも大つぶの雨降り始めたり(福田時子)
くりかえし核実験の報を見て急な雷雨に足をとらるる(久野高子)
突然にくるしくなってもだえ居り我の願いしぴんころりとは(林 志げ)
朝毎に訪ひ来る娘は見かねてか黙って掃除機かけてくれたり(佐野きく子)
洗濯もの風の押すまま おおおおお 護衛艦いでぬ先達として(大栗紀美子)