六月例会(第四百六十七回)
   (平成二十一年六月十一日)

廃校の記念誌届くなつかしき父の名のあり母の名もあり(河野かなゑ)

遥かなる県境の尾根に雪残し萌黄急かせる矢車の音(大西富士夫)

就職内定とはづむ声にて告げて来ぬ母子の家庭に育ちたる孫(加藤朝美)

木漏日のベンチでまたも思いおり歌の言葉の一パイのお茶(後藤清子)

「品プリで連泊なんだ」得意げにあゝあの孫も修学旅行(横山 稔)

採れたての岩ガキ口に含みつつ笹川流れの乗船を待つ(井上秀夫)

花殻を切り終えて見る紛れなく「都忘れ」は母親の文字(梅村成佳)

やわらかき萌黄のベスト編みくれぬ卒寿の姉は形見と云いて(小原千津子)

愛かかげ鳩山さんは平成の兼続なるかまかせられるや(丸山節子)

新ジャガのうま煮をいつもくれし友子に頼らじと施設に入りし(小島美年子)

許し合い慰め合いて過ごす日々おひとり様の老後に感謝(鈴木芙美子)

脱ぎ捨てし苞や古葉の溜りつつ楠の若葉は陽を浴び躍る(出町昭子)

一本のさつまいもの苗持つ子達おずおずと土に手を触れて居り(鈴木寿美子)

けたたましく蛙鳴きだし俄かにも大つぶの雨降り始めたり(福田時子)

くりかえし核実験の報を見て急な雷雨に足をとらるる(久野高子)

突然にくるしくなってもだえ居り我の願いしぴんころりとは(林 志げ)

朝毎に訪ひ来る娘は見かねてか黙って掃除機かけてくれたり(佐野きく子)

洗濯もの風の押すまま おおおおお 護衛艦いでぬ先達として(大栗紀美子)

鉄塔の天辺すいっと蛙跳ぶわたしも揺れてる棚田の水面(安田武子)