四月例会(第四百六十五回)
    (平成二十一年四月九日)

バーコード付きし名札を巻かれたり入院患者を管理するとぞ(河野かなゑ)

坪庭のさんしゅの枝天に向きあかるく咲けり灯火のごと(林 志げ)

手のひらに乗りたるリスとお互いに目を丸くして睨めっこする(井上秀夫)

この書店も閉店のビラ貼られゐてそこはかとなく淋しさの湧く(鈴木寿美子)

あかつきの沈黙切りさき耳おそう叫びは鵺か姿は見せず(大西富士夫)

空缶にこつんとかわいた音のして無人売場にコインを落す(鹿野たつ子)

まず一校の合格聞きて胸内の重石がごろんと転がりゆけり(大栗紀美子)

百三歳を向かへたまひしわが恩師揖斐の山家になほ健やけし(佐野きく子)

卒業しやっと帰省の孫娘昨日キュートに今日フェミニンに(出町昭子)

山里の寺尾の誇る桜花日向も影も色濃く咲けり(加藤朝美)

鉄板にいかタマゴなど流したり箸パチッと割る焼けるのおそし(小島美年子)

行儀よく並べて植える鷺草の今年も思ふ菩薩のすがた(梅村成佳)

ボタン一つ押せば息子とつながると携帯電話を持つお守りとして(鈴木芙美子)

暖かき彼岸の墓参すがすがし森の何処かにうぐいすの声(丸山節子)

マッカーサーを松川さんと云いし祖母何度言っても直すことなく(小原千津子)

歌ならうならばと求め来てくれし「歌の歳時記」の表紙を撫でる(後藤清子)

合格のメール、男子誕生の知らせあり十三回忌の夫に告げる(久野高子)

二度三度立ち止まりまた歩き出す百米がわれには遠し(福田時子)

宇宙よりの信号思わす音のして何を捕えるMRI(安田武子)

笑って直ぐじわっと溢れて鼻すする素直になりぬ「おくりびと」観て(横山 稔)