三月例会(第四百六十四回)
 (平成二十一年三月十二日)

駅前のスクランブルの交差点蟻の如くに人ら行き交う(河野かなゑ)

氷河期の就職活動の学生に経済不況いつまで続く(加藤朝美)

くすの木のこずえを渡る風の音ふと浮かびくる受験の日々が(井上秀夫)

金華山を映す川面の藍深く車のライトの帯が流るる(大栗紀美子)

甘えずにしゃんと生きんと誓いしが優しい言葉に決意の弛む(鹿野たつ子)

年とるはこういうことと思うことこの頃多し錠剤おとす(小島美年子)

若き日に八方美人といわれしがここまで生きてそを諾えり(鈴木芙美子)

思う如く土鍋描けず三枚目の土鍋のパステル画もくず籠に捨つ(安田武子)

たどたどと「灯りをつけましょぼんぼりに」曾孫の唄に家族の笑顔(後藤清子)

二十余粒の薬で命保ちいる夫の小康ほっと息つく(小原千津子)

二人目の子を産むという小渕さん少子化大臣の気骨匂えり(横山 稔)

冬空に城と満月並びいて墨絵のごとし歓声あげる(丸山節子)

わが庭に幾年咲きつぐみどり葉の勿忘草の空色の花(梅村成佳)

年とれど生活の足冥土まで運転するぞと講習を受く(林志げ)

独り居は気楽でいいねと人の言う今宵も近くを救急車の音(久野高子)

いくたりの人がここより旅立ちし壊されてゆく病院眺む(鈴木寿美子)

友の家の庭先あるく雉の雄稲葉山より飛翔したるや(佐野きく子)

孫からの電話で足はどうですかやさしく言われ思わず涙(福田時子)

怠りゐし夫の靴も磨き置く一泊せし息子の靴と並べて(出町昭子)