一月例会(第四百六十二回)
    (平成二十一年一月十五日)

廃校となる校門を背景に被写体となる老いたるわれら(河野かなゑ)

氷雨に濡れ黄の鮮やかな柚子をもぐ雪折れの後再起せし木の(出町昭子)

緻密なる授業重ねし後にわれの戦争体験聞く顔堅し(安田武子)

ホトトギス農婦の鎌に刈りとられあっという間に今年を終わる(鹿野たつ子)

氏神の竹を切り出し縄を綯ふ夫の人生最後の役目(鈴木寿美子)

軸をかえ毛せんを敷き屠蘇器出し来る孫たちへの正月支度(小島美年子)

年の瀬に住なく職なくさまよえる人の多くていかが過ごすや(丸山節子)

訪ねし子を「おじいさんになって来たね」と九十歳のねたきりの母(鈴木芙美子)

不景気の話ばかりのテレビ切り青菜を取りに畑に出でたり(林 志げ)

誰か知るこの三月前解雇され宿を追われて野宿するとは(横山 稔)

お正月をハワイですごしし杳き日にアンスリームを土産に買いぬ(加藤朝美)

カラカラと枯葉が舗道を転げゆく音ひびきけり夜の柳ヶ瀬(井上秀夫)

刈田よりバサッと飛び立つ群雀すずめすずめよお宿はいずこ(後藤清子)

ディサービスに行くご近所のお二人に手を振り送る冷えしるき朝(小原千津子)

減らすこと頭に置いた賀状書き来るは来る来る喪中のはがき(梅村成佳)

湯気のたつ鍋囲みての忘年会不況を言いつつ箸の手止まず(久野高子)

奥美濃に栽培したる大豆なりその洞戸味噌朝餉にうまし(佐野きく子)

巧いとは思はぬ画なれど五十号にアタックせし子の懸命かざる(大栗紀美子)