近寄ればぱっと逃げてゆく鮠一匹川底の砂鰭で蹴散らし(河野かなゑ)
晴れ渡る摩周湖一面凪ぎわたりブルーの墨を流せるごとし(井上秀夫)
老いの住むポンプの脇に巣をつくる蜂のいとなみ習ってみたい(梅村成佳)
食べる時この頃時々物こぼす今日は花型にご飯数粒(小島美年子)
軒先に激しき音す風鈴の悪しき機嫌に夕立を知る(安田武子)
蒲焼は秘伝のたれで焼き上げて届けてくれたりありし日の父(丸山節子)
また一つ薬手帳に増えてゆく薬のかずを背おひて生きる(福田時子)
捨てられし百合のつぼみを深水に活けて七日目色付きつめぬ(出町昭子)
七夕の短冊おもし洞爺湖にサミット首脳平和の祈り(林しげ)
濃紫のてっせん真白き芯を持つ疑わるればそれだけの吾(大栗紀美子)
知らぬ間に野菜を抑え生い茂る雑草と戦ふ夫と共に(鈴木寿美子)
体温より二度も三度も上りいて老いにはきびし今年の猛暑は(加藤朝美)
久しぶりに我家に帰ればおかえりとゴーヤ花咲きトマトは赤し(浅野まつゑ)
熱冷ますやっと猛暑の熱冷ます降れ降れ止むな焼けたる庭に(横山 稔)
いろいろの浴衣の力士降りて来て名古屋の駅はメタボにあふる(後藤清子)
藁草履で通いし日もあるあの母校疎開生なりし友と歩きぬ(小原千津子)
わが夫の愚痴は言ふまじ脳梗塞の予後といへども足腰達者(佐野きく子)
郵便のバイクの音の止まりたり今日は何処から何の頼りか(鹿野たつ子)
温暖化国々に共有といいながら霧に包まるサミット会場(久野高子)
寝たきりになりしあなたは逢うたびに死にたいといいアイスクリーム食べる(鈴木芙美子)