八月例会(第四百五十七回)
       (平成二十年八月十三日)

近寄ればぱっと逃げてゆく鮠一匹川底の砂鰭で蹴散らし(河野かなゑ)

晴れ渡る摩周湖一面凪ぎわたりブルーの墨を流せるごとし(井上秀夫)

老いの住むポンプの脇に巣をつくる蜂のいとなみ習ってみたい(梅村成佳)

食べる時この頃時々物こぼす今日は花型にご飯数粒(小島美年子)

軒先に激しき音す風鈴の悪しき機嫌に夕立を知る(安田武子)

蒲焼は秘伝のたれで焼き上げて届けてくれたりありし日の父(丸山節子)

また一つ薬手帳に増えてゆく薬のかずを背おひて生きる(福田時子)

捨てられし百合のつぼみを深水に活けて七日目色付きつめぬ(出町昭子)

七夕の短冊おもし洞爺湖にサミット首脳平和の祈り(林しげ)

濃紫のてっせん真白き芯を持つ疑わるればそれだけの吾(大栗紀美子)

知らぬ間に野菜を抑え生い茂る雑草と戦ふ夫と共に(鈴木寿美子)

体温より二度も三度も上りいて老いにはきびし今年の猛暑は(加藤朝美)

久しぶりに我家に帰ればおかえりとゴーヤ花咲きトマトは赤し(浅野まつゑ)

熱冷ますやっと猛暑の熱冷ます降れ降れ止むな焼けたる庭に(横山 稔)

いろいろの浴衣の力士降りて来て名古屋の駅はメタボにあふる(後藤清子)

藁草履で通いし日もあるあの母校疎開生なりし友と歩きぬ(小原千津子)

わが夫の愚痴は言ふまじ脳梗塞の予後といへども足腰達者(佐野きく子)

郵便のバイクの音の止まりたり今日は何処から何の頼りか(鹿野たつ子)

温暖化国々に共有といいながら霧に包まるサミット会場(久野高子)

寝たきりになりしあなたは逢うたびに死にたいといいアイスクリーム食べる(鈴木芙美子)