六月例会(第四百五十五回)
     (平成二十年六月十二日)

弁当の二段重ねが母の日に届けられたり娘の手作り(横山 稔)

草いきれ汗を拭きつつ分け入りてわらびをさがす蕨は何処に(安田武子)

蚕飼い絹機おりし母のすがた遠き昔がよみがえる夜(浅野まつゑ)

豊かなる九尺ふじの花房を乳房のごとく手のひらに受く(井上秀夫)

石徹白の嫗の作りし草餅はたっぷりあんこを包みて柔し(出町昭子)

空高く桐が気高き花さかす人も鳥らも見返りもせず(林 志げ)

メディアより消えてしまひぬメーデーの青春の日の暑き思ひ出(鈴木寿美子)

みどり児は可愛いいされど止められぬ外にて煙草の若き父親(丸山節子)

失敗も糧にされよと大空の少し欠けたる月がほほえむ(大栗紀美子)

徳山のダム湖に沈むともらい来し黄花のあやめ二十年目を咲く(小島美年子)

トンネルをいくつも抜けて高山の屋台会館七基の華麗(鹿野たつ子)

いくさなどしているときか幾万の被災者抱え苦しむ地球(鈴木芙美子)

天城越え曲がれる道の朴の花ガイドは岐阜の山に似てると(梅村佳成)

五輪への切符手にした女子バレーこれからがスタートと彼女らは言う(河野かなえ)

一ヵ月に夫と息子失ないし友は家売り施設に入りぬ(加藤朝美)

駐車場のタイヤの跡にタンポポが汚れた顔して笑っているよ(後藤清子)

顔そむけ四川省の空をわたりしや青白き月中天にあり(小原千津子)

六十年見ぬ友の顔浮かび来ず茶店の席に落ち着かず待つ(長谷川和代)

生死分かつ戦時の海に撃ち合ひし夫の三年年金満たさず(佐野きく子)

母の日に可愛いい花のプレゼント孫より届く籠に小さく(福田時子)

サイクロン地震の話題たえまなし核の施設に言葉とだえる(久野高子)