五月例会(第四百五十四回)
    (平成二十年五月八日)

人の居ぬスタンドに来て給油するセルフの操作をやっと覚えて(河野かなえ)

春風につゝましやかなるカタクリの花は互いにおしゃべり始む(井上秀夫)

さかい川桜ふぶきに花かんざしあなたは見てるか遠き空より(浅野まつゑ)

亡き友の家はこわされ思い出の消えゆく庭に椿の花咲く(林 志げ)

麦秋の黄金の風景なくなりて輸入小麦の値上りつづく(加藤朝美)

真夜中の徳山ダムよりひょっこりと跳り出てこよ沈みしものら(大栗紀美子)

カンアオイ庭に増えたりギフ蝶よ春の女神よここに舞い来よ(小島美年子)

高齢者の保険料また殖えると言う春はたけなわ天引始まる(丸山節子)

真一文字美男葛に夢乗せて南へ南へ八十路を延びる(梅村成佳)

病みている夫の留守居案じつつ帰り来たらばハモニカ聞こゆ(佐野きく子)

聖火囲み世界の荒れる画面にはわれは術なくただ憂ふのみ(鈴木寿美子)

ガソリン税下がれどメリットわれになしパン等値上げの記事目にとまる(久野高子)

春耕の田の何処より飛び立ちし羽裏の白く目立つ鵲鴒(出町昭子)

あれは何あれは誰かと木の芽らの声聞こえくる散歩しおれば(後藤清子)

足りてなお飽かず求めるわれにとり「求めない」とう本は鮮烈(横山 稔)

仰向きて椿の下に立ちどまる首輪に仕立てた遠き思い出(長谷川和代)

さ蕨のまだ伸びきらぬやわらかき茎ゆで春の香りを食べる(福田時子)

子らの声かって溢れしこの路地に人影もなく花咲きさかる(小原千津子)

さくら散り八王子川の花筏ゆらりゆらゆら春の挽花か(鹿野たつ子)

百年の家残さんと整理するわれに力を与えたまえよ(鈴木芙美子)

大宇宙にあくせく煩う吾がいても異変もなくて花は咲き継ぐ(安田武子)