三月例会(第四百五十二回)
    (平成二十年三月十三日)

大道に寝転びわめく幼な子は人ごとならずわが孫なりき(井上秀夫)

出来ばえを尋ねる記者に受験生「明日が山です」足早に去る(横山 稔)

手術室に静かな音楽流れいて「少し痛むよ」麻酔医の云う(加藤朝美)

採り遅れしなばな立派に花咲くと子は持ちて来ぬ南天添へて(出町昭子)

蕗のとう落葉かきわけ頭出す廃屋の里に陽のふりそそぐ(浅野まつゑ)

消えゆきし八百津線の音きこゆ久に泊りし実家の目覚めに(小原千津子)

春の戸があいたら今年は出かけようせっかく元気になったんだから(後藤清子)

マスク付け帽子に眼鏡の人と会い会釈されても誰かわからず(丸山節子)

どんど焼火の勢いに舞い上る平和の二文字どおーっと歓声(安田武子)

ほろ苦き香りたたせて蕗の薹煮ている二月のわたしの行事(小島美年子)

オクションにて求めたというハッキンカイロ胸に当てれば夫の顕ちくる(久野高子)

ミニ薔薇を大きい鉢に植かえて鉢と一緒に日なたぼこする(福田時子)

おさな児が私にくれし紙時計働き見せる赤い秒針(梅村成佳)

山寺の庭鎮もりて尼さんの日向のごとき笑顔に出合う(大栗紀美子)

百歳を越え給ひたる師のはがき滋味あふるるを読み返しをり(佐野きく子)

昨日今日籠りしままに日の暮れて外は木枯し鳥さえ見えぬ(鹿野たつ子)

はだか木に雪の花咲く今朝の庭朝陽もともにわがものとする(林 志げ)

六十年経て不意に友の声昨日の如く思い出広がる(長谷川和代)

満面の笑みで赤子に話す姪は育てる苦労知る由もなく(鈴木寿美子)

綾乃は今ヴァージンロードを歩みゆくその父歩巾のやゝに大きく(河野かなゑ)

チョコあげし人にもらいしチョコの味バレンタインに密かな楽しみ(鈴木芙美子)