十二月例会(第四百六十一回)
    (平成二十年十二月十一日)

隧道の出口は丸く弧を描き闇に浮かべる紅葉の錦(河野かなゑ)

徳山を釣りに訪ねし日は遥かいま満水の湖畔にたたずむ(井上秀夫)

みなさんと楽しかったと言ふ様な友の遺影になほ湧く涙(出町昭子)

五十歳の次男亡くせし友よりの喪中はがきをじっと見ている(小原千津子)

幼な子に今日も絵本を読みやりぬむかしむかしと気持をこめて(後藤清子)

水路より鷺のしゅっと飛び立ちて白き直線大空を射す(鹿野たつ子)

紅葉狩りついに今年は行かざりきテレビで眺む天空の紅葉(丸山節子)

金沢城石川門の大扉に戦国の世を偲びおりたり(林 志げ)

物故者の増えし淋しさまぎらはし飲み歌ひゐる今宵の仲間(鈴木寿美子)

この処暗きニュースの続く中遼少年の明るい笑顔(加藤朝美)

スーパーの魚売り場に働ける娘を思いて独りの夕餉(鈴木芙美子)

呟きつ押し合う皿の伊勢海老に炭火熾す手戸惑ひ動かず(安田武子)

散りしきる枯葉ざわざわ踏みながら今日も株価の目減りを数う(久野高子)

寛容しぼみ独善ばかりが肥大するまた軽く消ゆ重き命が(横山 稔)

梅干をたっぷり入れて鰯煮る青い魚を無性に食べたく(小島美年子)

手間替えのとうすびきの時呼び会いし名前呼ばわり今も続けり(梅村成佳)

庭木々のひまに赤き実垂れている美男葛は鳥のたまもの(佐野きく子)

「頑張るねえ」よちよち走る子を褒めるママにふり向く幼のひとみ(大栗紀美子)