十一月例会(第四百六十回)
 (平成二十年十一月十三日)

一日を咲き誇りたる野牡丹の散りても紫なおきわめをり(鈴木寿美子)

水底の石に光りの波の影映して岸辺の川は急がす(大栗紀美子)

近寄れば泣き声ひときわ高くなる転びし幼なを夕陽が包む(安田武子)

鉢のまま貰いて来たる翁草実生の苗を殖やしてくれと(梅村成佳)

リュック負ふ姿似たれど買出しの中身豊かなレジ袋廃止(出町昭子)

ノーベル賞三人の授賞を一面に名優緒形の訃報も載せて(小島美年子)

四角ばる菜切り包丁手にとれば菜を切る母ゐる眼裏にたつ(横山 稔)

「こんにちは」思わず声をかけてみた案山子おしゃれなエプロン姿(鹿野たつ子)

炊きたての栗のご飯を頂きて胸に抱えて路地帰り来ぬ(鈴木芙美子)

伝説の夜叉姫の里安次の古池青く萩のこぼるる(林 志げ)

木登りの好きな少女のさくらんぼりんごを穫りしは 遥かになれり(丸山節子)

駅前は幾何学模様に描かれぬ四十三階より眺むれば(井上秀夫)

中天の満月庭に腰下ろし暫し見惚るる深夜を覚めて(小原千津子)

冬ごもりの支度できしか蟻たちよここにもあるよ蝉の片羽根(後藤清子)

通院の夕暮れの道にピラカンサオレンジの実があざやかに映ゆ(福田時子)

みじか日の夕暮れの庭ひとところ秋明菊の白じろと咲く(加藤朝美)

奥美濃の山に採れたるまたたびを猫のくすりと粉末にする(佐野きく子)

それぞれに生き来し老いら施設にてただに黙して折紙を折る(河野かなゑ)

ちぎれ雲かたち変えつつ流れゆく揺らぐ心に自問はつづく(久野高子)