十月例会(第四百五十九回)
                     (平成二十年十月九日)

風の神鎮まれと祈る風の盆越中八尾の夜は深みゆく(河野かなゑ)

あんなにも可愛い子供を殺めしか日本は病めり社会も人も(丸山節子)

青空を紅に受けとめ広がりし私も染まるさんご草の湖(安田武子)

稲実るあぜ道行けばアキアカネ編隊なしてあいさつに来る(井上秀夫)

嫁ぐ日にもち来し羽織のむらさきを思い出させる野牡丹の花(林 志げ)

稲妻とはよく言ひしもの二晩を雷轟きて稲の花咲く(出町昭子)

五輪もよけれパラリンピックはなおすごしテレビを見る目思わずうるむ(小島美年子)

“それもよかろ”と言いいし夫にゆるされてわが道をゆく独りの老後(鈴木芙美子)

秋つぐる萩の一群道ばたに咲きほこりおり歩みをとめつ(福田時子)

黄金色にみのりし稲穂広がれり不安あれども食欲の増す(久野高子)

喜びも悲しき事も乗りこえて子供に返りし夫とくらす(加藤朝美)

お隣さん囲いをしたね 「へえ」と返す古典落語の暖かきかな(横山 稔)

頑張ってもう一つ向こうのベンチまで歩むみ空に淡き半月(後藤清子)

少年兵たりし夫の重なりて涙して見る「おとこたちの大和」(小原千津子)

曾孫去りしじまのもどる月の夜紙飛行機は不時着のまま(鹿野たつ子)

年々に刻む収穫覚えてる棚田だよりの戦後の日々は(梅村成佳)

奥美濃にて栽培されたる大豆にて朝餉好ましこの洞戸味噌(佐野きく子)

無花果の実をうばい会うヒヨの声生きんと諍う命ここにも(大栗紀美子)

あの時の笑顔あの時のあの声が思い浮かび来友の遺影に(鈴木寿美子)