一月例会(第四百五十回)
    (平成二十年一月十日)

偽が今年の漢字に選ばるる真の字になる世はいつのこと(河野かなゑ)

白菜がわらの鉢巻冬を待つ「持ってきんさい」と里のぬくもり(浅野まつゑ)

お得意に日めくりカレンダー配布する習わし二十七年つづきぬ(井上秀夫)

友みなに元気元気と言われ来て鏡の中の元気見ている(後藤清子)

大勢の教へ子達に見送られ叔母は旅立つ家族待つ世へ(鈴木寿美子)

生るまでの吾の命を疑わず植えしみかんの初生りを採る(林志げ)

カテーテル検査受けれど大事なし病後の夫も慰めくるる(佐野きく子)

塀越えて飛び込みしボール探すとて挨拶の少年はみかみ王子(出町昭子)

言葉では本意伝わらず誤解まねくひとり静かに草引いている(丸山節子)

慎ましくつましくありし若き日のわれと並びし夫の写真(鈴木芙美子)

足赤くなるまで話はずみたり見知らぬ人と足湯にならぶ(長谷川和代)

乗り捨てられし自転車樹の下に止められていて篭に葉の積む(小島美年子)

投機とは我利我利亡者のすることぞ悲鳴をあげる油穀物(横山稔)

年末も年始もなくてアルバイトに精を出している孫大学生(加藤朝美)

金婚の年を迎えた初詣名を呼び合ったときはるかなり(梅村成佳)

束の間の雨の上がりてあざやかに百々ケ峯より虹湧き上がる(福田時子)

背戸の柿屋根より採りし想い出も新築なりて今は幻(鹿野たつ子)

アンケートに偽年齢を書き入れる白シクラメンもグラデーションあり(久野高子)

バス停に転びたるのち乗り込みしバスの中なる私のこころ(大栗紀美子)

ドイツより年末帰国と電話あり師走も間近わが家は春に(安田武子)

来年の事わからぬと思いつつ小春日の公園そぞろ歩きぬ(小原千津子)