偽が今年の漢字に選ばるる真の字になる世はいつのこと(河野かなゑ)
白菜がわらの鉢巻冬を待つ「持ってきんさい」と里のぬくもり(浅野まつゑ)
お得意に日めくりカレンダー配布する習わし二十七年つづきぬ(井上秀夫)
友みなに元気元気と言われ来て鏡の中の元気見ている(後藤清子)
大勢の教へ子達に見送られ叔母は旅立つ家族待つ世へ(鈴木寿美子)
生るまでの吾の命を疑わず植えしみかんの初生りを採る(林志げ)
カテーテル検査受けれど大事なし病後の夫も慰めくるる(佐野きく子)
塀越えて飛び込みしボール探すとて挨拶の少年はみかみ王子(出町昭子)
言葉では本意伝わらず誤解まねくひとり静かに草引いている(丸山節子)
慎ましくつましくありし若き日のわれと並びし夫の写真(鈴木芙美子)
足赤くなるまで話はずみたり見知らぬ人と足湯にならぶ(長谷川和代)
乗り捨てられし自転車樹の下に止められていて篭に葉の積む(小島美年子)
投機とは我利我利亡者のすることぞ悲鳴をあげる油穀物(横山稔)
年末も年始もなくてアルバイトに精を出している孫大学生(加藤朝美)
金婚の年を迎えた初詣名を呼び合ったときはるかなり(梅村成佳)
束の間の雨の上がりてあざやかに百々ケ峯より虹湧き上がる(福田時子)
背戸の柿屋根より採りし想い出も新築なりて今は幻(鹿野たつ子)
アンケートに偽年齢を書き入れる白シクラメンもグラデーションあり(久野高子)
バス停に転びたるのち乗り込みしバスの中なる私のこころ(大栗紀美子)
ドイツより年末帰国と電話あり師走も間近わが家は春に(安田武子)
来年の事わからぬと思いつつ小春日の公園そぞろ歩きぬ(小原千津子)